2026/09/16
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【プレスリリース】能登半島地震の隆起でできた「滝」の遡上を観測—河川構造物に10年以上影響する可能性も明らかに—
発表のポイント
●2024年の令和6年能登半島地震で隆起した能登半島西部の八ヶ川の河口をドローンによる地形計測で追跡し、わずか1年で最大2 mの河床(川底)の削り込み(下刻)が生じたこと、海岸隆起で生じた河口と海の高度差によって「滝」のような河川の急流区間(遷急点(注1))が形成され、それが河口から1 km近く内陸まで移動したことを観測しました。
●過去の河原が取り残された階段状の地形である「河岸段丘(注2)」が地震後に形成されるプロセスを、世界で初めて高精細に観測しました。
●能登半島の他の河川でも同様に、下刻による護岸の崩壊や橋脚の不安定化などの影響が長期間にわたって継続するおそれがあります。
【用語説明】
注1.遷急点:河川の上流から下流に向かって、河床勾配が緩やかな区間から急な区間に変化する屈曲点のこと。滝の頂部は遷急点にあたる。地殻変動や河川争奪などで形成された遷急点は、上流へと移動(遡上)することで、河川の下方向への侵食を促す。
注2.河岸段丘:河川沿いに発達する階段状の地形。河川が下に削り込んだことによって、過去の平坦な河原(氾濫原)が河川よりも高所に取り残されてできた地形である。
●過去の河原が取り残された階段状の地形である「河岸段丘(注2)」が地震後に形成されるプロセスを、世界で初めて高精細に観測しました。
●能登半島の他の河川でも同様に、下刻による護岸の崩壊や橋脚の不安定化などの影響が長期間にわたって継続するおそれがあります。
【用語説明】
注1.遷急点:河川の上流から下流に向かって、河床勾配が緩やかな区間から急な区間に変化する屈曲点のこと。滝の頂部は遷急点にあたる。地殻変動や河川争奪などで形成された遷急点は、上流へと移動(遡上)することで、河川の下方向への侵食を促す。
注2.河岸段丘:河川沿いに発達する階段状の地形。河川が下に削り込んだことによって、過去の平坦な河原(氾濫原)が河川よりも高所に取り残されてできた地形である。
概要
本学の岩佐佳哉講師が所属する、東北大学災害科学国際研究所の高橋尚志助教らの研究グループは、令和6年能登半島地震によって4 m近い海岸隆起が生じた沿岸の河川をモニタリングし、非常に急速な侵食が発生していることを明らかにしました。本成果は、地形学的に重要な科学的発見であると同時に、地震隆起が起こりうる地域における河川管理や防災対策に重要な知見を与えるものです。本研究成果は、2026年9月14日にCommunications Earth & Environment誌に掲載されました。
【論文情報】
タイトル:Rapid fluvial response to meter-scale coseismic coastal uplift during the 2024 Noto Peninsula earthquake
著者:Takayuki Takahashi*, Takuro Ogura, Kotaro Iizuka, Yoshiya Iwasa, Yuichi S. Hayakawa, Tatsuto Aoki, Nobuhisa Matta
掲載誌:Communications Earth & Environment
DOI:https://doi.org/10.1038/s43247-026-03919-9
URL:https://www.nature.com/commsenv/
*責任著者:高橋尚志(東北大学災害科学国際研究所助教) 著者:小倉拓郎(一橋大学大学院社会学研究科講師)、飯塚浩太郎(兵庫県立大学環境人間学部准教授、研究当時:東京大学空間情報科学研究センター)、岩佐佳哉(福岡教育大学教育学部講師)、早川裕弌(北海道大学地球環境科学研究院環境地理学分野准教授)、青木賢人(金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授)、松多信尚(岡山大学学術研究院教育学域教授)
【論文情報】
タイトル:Rapid fluvial response to meter-scale coseismic coastal uplift during the 2024 Noto Peninsula earthquake
著者:Takayuki Takahashi*, Takuro Ogura, Kotaro Iizuka, Yoshiya Iwasa, Yuichi S. Hayakawa, Tatsuto Aoki, Nobuhisa Matta
掲載誌:Communications Earth & Environment
DOI:https://doi.org/10.1038/s43247-026-03919-9
URL:https://www.nature.com/commsenv/
*責任著者:高橋尚志(東北大学災害科学国際研究所助教) 著者:小倉拓郎(一橋大学大学院社会学研究科講師)、飯塚浩太郎(兵庫県立大学環境人間学部准教授、研究当時:東京大学空間情報科学研究センター)、岩佐佳哉(福岡教育大学教育学部講師)、早川裕弌(北海道大学地球環境科学研究院環境地理学分野准教授)、青木賢人(金沢大学人間社会研究域地域創造学系准教授)、松多信尚(岡山大学学術研究院教育学域教授)
背景
地殻変動による土地の隆起や海面の低下に対して、河川がどのように形を変えて適応していくかは、地球科学において長年の重要なテーマです。しかし、数カ月から数年という、地球の歴史のなかでは極めて短い時間軸のなかで、砂や礫からなる未固結の堆積物上で起きる急速な地形変化を、高い頻度かつ高精度で直接捉えた観測例は、世界的にもほとんどありませんでした。
2024年1月1日に発生した能登半島地震(Mw 7.5)は、半島北部・西部において最大5.2 mの大規模な海岸隆起を引き起こしました。その結果、能登半島の地盤が持ち上がったことによって、河川は元の高さに戻ろうと下へと削り込みを始めたのです。さらにその約8カ月半後の9月20〜22日には、能登半島地震の被災地に甚大な被害をもたらした「奥能登豪雨」が発生し、各河川で大規模な洪水が発生しました。能登半島地震と奥能登豪雨によるこれらの一連の災害は甚大な被害をもたらし、未曾有の複合災害(マルチハザード)となりましたが、その一方で、地震と豪雨の相互作用による河川地形のダイナミックな変化を最先端の測量技術で追跡できる世界的にも極めて稀な事例となりました
2024年1月1日に発生した能登半島地震(Mw 7.5)は、半島北部・西部において最大5.2 mの大規模な海岸隆起を引き起こしました。その結果、能登半島の地盤が持ち上がったことによって、河川は元の高さに戻ろうと下へと削り込みを始めたのです。さらにその約8カ月半後の9月20〜22日には、能登半島地震の被災地に甚大な被害をもたらした「奥能登豪雨」が発生し、各河川で大規模な洪水が発生しました。能登半島地震と奥能登豪雨によるこれらの一連の災害は甚大な被害をもたらし、未曾有の複合災害(マルチハザード)となりましたが、その一方で、地震と豪雨の相互作用による河川地形のダイナミックな変化を最先端の測量技術で追跡できる世界的にも極めて稀な事例となりました
今回の取り組み
研究グループは、4 m近い大規模な地殻隆起の影響を強く受けた河川である八ヶ川(はっかがわ)の河口から約1 kmの区間を対象にして、地震後から継続した地形計測調査を実施しました。地震直後の合成開口レーダー(SAR)画像や国土地理院の航空写真に加え、ドローンを用いた高精細レーザー測量(UAV-LiDAR)および写真測量(SfM-MVS)を繰り返し行い、3次元地形モデルを構築して、河口付近の地形変化を時系列で精密に計測・解析しました(図1)。
地震直後の現地調査の結果、地震隆起によって、短い時間で海岸が持ち上げられたことで、河床と海面の間に高度差が生じ、地震直後には河口付近に「滝」のような河床の急流区間が形成されていたことがわかりました。さらにそれを追跡して測量・解析した結果、地震発生から1年以内に、豪雨などによる洪水を引き金として、最大2 mもの垂直方向の河床の削り込み(下刻:かこく)が起きたことが判明しました。これは、隆起によって河口付近に生じた「滝」のような河床の急流区間の上流端(遷急点:せんきゅうてん)が、わずか1年未満の間に最大770 mも上流へと遡上(後退)したことによります(図2)。また、この遷急点は、2024年7月の大雨と同年9月の奥能登豪雨の洪水ピーク時に急激に上流へと移動したこと、現在は人工の堰に達して停止していることも明らかになりました。
この遷急点の急速な遡上に伴って河床が削り込まれることで、それまで河床の下に埋もれていた、約7,400年前の縄文時代に河口付近で堆積したとみられる砂や泥からなる堆積物が露出したことも確認されました。これは、地震隆起からわずか1年未満という非常に短い期間で新たな「河岸段丘」が形成されたこと、ならびに、海岸段丘とそれにつづく河岸段丘が、ほとんど同時期に形成されうることを示す世界初の観測事例となりました。
一方で、河床が侵食されるにつれて、河床にあった砂利のうち、砂などの細かい堆積物ばかりが先に下流へと流された結果、現在は、大きな礫や人工のコンクリートの破片が河床に取り残される「アーマー化現象」が発生しています。これによって河床は礫ばかりとなって侵食を受けづらくなり、垂直方向の削り込みは一時的に抑制されています。しかし今後、河床の礫が除去されるなどした場合は、さらなる削り込みが発生する可能性があります。垂直方向への削り込みが抑制されたことで、今度は河川の流水のエネルギーが横方向の崖を削る「側方侵食」が発生しており、川幅が60 m以上に拡大する現象も確認されました。河川の流路は、下方向への侵食によって一度細く深い形状になった後、増水を経て浅く広い形状へとダイナミックに姿を変えていくことが実証されました。
地震直後の現地調査の結果、地震隆起によって、短い時間で海岸が持ち上げられたことで、河床と海面の間に高度差が生じ、地震直後には河口付近に「滝」のような河床の急流区間が形成されていたことがわかりました。さらにそれを追跡して測量・解析した結果、地震発生から1年以内に、豪雨などによる洪水を引き金として、最大2 mもの垂直方向の河床の削り込み(下刻:かこく)が起きたことが判明しました。これは、隆起によって河口付近に生じた「滝」のような河床の急流区間の上流端(遷急点:せんきゅうてん)が、わずか1年未満の間に最大770 mも上流へと遡上(後退)したことによります(図2)。また、この遷急点は、2024年7月の大雨と同年9月の奥能登豪雨の洪水ピーク時に急激に上流へと移動したこと、現在は人工の堰に達して停止していることも明らかになりました。
この遷急点の急速な遡上に伴って河床が削り込まれることで、それまで河床の下に埋もれていた、約7,400年前の縄文時代に河口付近で堆積したとみられる砂や泥からなる堆積物が露出したことも確認されました。これは、地震隆起からわずか1年未満という非常に短い期間で新たな「河岸段丘」が形成されたこと、ならびに、海岸段丘とそれにつづく河岸段丘が、ほとんど同時期に形成されうることを示す世界初の観測事例となりました。
一方で、河床が侵食されるにつれて、河床にあった砂利のうち、砂などの細かい堆積物ばかりが先に下流へと流された結果、現在は、大きな礫や人工のコンクリートの破片が河床に取り残される「アーマー化現象」が発生しています。これによって河床は礫ばかりとなって侵食を受けづらくなり、垂直方向の削り込みは一時的に抑制されています。しかし今後、河床の礫が除去されるなどした場合は、さらなる削り込みが発生する可能性があります。垂直方向への削り込みが抑制されたことで、今度は河川の流水のエネルギーが横方向の崖を削る「側方侵食」が発生しており、川幅が60 m以上に拡大する現象も確認されました。河川の流路は、下方向への侵食によって一度細く深い形状になった後、増水を経て浅く広い形状へとダイナミックに姿を変えていくことが実証されました。
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図1. 八ヶ川における能登半島地震発生後1年間のUAV画像と現地の様子※2026年9月16日17時頃に図1を差し替えました
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図2. 能登半島地震以降に生じた河川地形の変化を簡略的に表した模式断面図
今後の展開
地震から2年半以上が経過しましたが、河口から進行する侵食はまだこれからも続くと予想されます。地震前後の標高データの解析から、八ヶ川の河口から約10 kmの区間では、今後10年以上にわたって河床の低下や川幅の拡大といった地形変化が続く可能性が示唆されました。このような激しい下刻や側方侵食は、護岸の崩壊や橋脚の不安定化といったインフラ災害を引き起こし得ると考えられます。実際に八ヶ川では、人工の堰および橋脚付近での侵食や、護岸の崩落などがすでに確認されています。これと同様の現象は、同じように隆起の影響を受けた能登半島北部の他の河川でも、同時に進行している可能性が極めて高いと考えられます。
本研究は、地殻隆起を伴う大地震の後には、長期間におよぶ二次的な河川災害リスクを正しく認識し、将来的に侵食されうることを前提として、河川インフラの維持管理や防災・減災計画を中長期的な視点で見直す必要があることを示しています。研究グループは、今後も能登半島で継続的な観測を行い、河川の地形が最終的な安定状態に至るまでのプロセスやそれにかかる時間を明らかにし、さらに比較のため、河床の勾配や流量、地質の硬さなどが異なる能登半島の他の河川での観測も実施していく予定です。
本研究は、地殻隆起を伴う大地震の後には、長期間におよぶ二次的な河川災害リスクを正しく認識し、将来的に侵食されうることを前提として、河川インフラの維持管理や防災・減災計画を中長期的な視点で見直す必要があることを示しています。研究グループは、今後も能登半島で継続的な観測を行い、河川の地形が最終的な安定状態に至るまでのプロセスやそれにかかる時間を明らかにし、さらに比較のため、河床の勾配や流量、地質の硬さなどが異なる能登半島の他の河川での観測も実施していく予定です。
報道発表資料
本学研究者情報